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天敵オオスズメバチの攻撃に対してのみ行うニホンミツバチの塗り付け行動:緊急時に塗り付け物質として利用する多様な生物の新発見

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  • 藤原, 愛弓 一般社団法人日本在来種みつばちの会
  • 藤原, 由美子 一般社団法人日本在来種みつばちの会

DOI:

https://doi.org/10.51094/jxiv.630

キーワード:

ニホンミツバチ、 オオスズメバチ、 塗り付け物質、 植物、 キノコ、 昆虫、 動物、 防衛行動

抄録

 オオスズメバチVespa mandariniaは、秋季にニホンミツバチApis cerana japonicaの群れを集団で攻撃し、時に全滅させる天敵である。ニホンミツバチは、巣に偵察に来る斥候のオオスズメバチ個体に対して蜂球を形成して熱殺し、その後の壊滅的な集団攻撃を防ぐことが知られている。著者らの2011年からの研究により、オオスズメバチの斥候の飛来後から、ニホンミツバチの働き蜂が複数の植物種の葉や芽等の植物片を巣箱の入り口周辺へ塗りつける行動を盛んに行うこと、その際に緊急的なダンスを踊ること、この行動は他のスズメバチ種に対しては起こらないことが初めて示された(Fujiwara et al. 2016, 2018)。

 また、2011年秋の調査時に、植物以外の生物由来と考えられる物質の塗り付けが多数確認され、その後毎年同時期に確認された。これらの行動の検証のため、2011年から2015年にかけて、働き蜂の塗り付け行動を、ビデオカメラ等を用いて映像や画像で記録した。2015年には、顕微鏡を用いて塗り付け物質を観察し、物質に含まれる内容物について検証した。その際、植物片だけでなく、複数種の昆虫類と正体不明な生物由来の物質が確認された。

 2016年秋季には、野外調査と働き蜂個体のマーキング調査により、オオスズメバチに襲撃された後、働き蜂がキノコ類の個体を齧り、塗り付け物質として利用することが確認された。2017年秋季には、働き蜂が大顎にガ類や双翅目の幼虫などを、大顎に咥えて巣箱に持ち帰り塗り付ける行動を初めて発見した。働き蜂により塗り付けられた直後にこれらの昆虫類を観察したところ、昆虫個体の多くは、直前まで生きていたと思われる新鮮な状態であり、体液が出ている昆虫類も複数個体確認された。これらの調査結果から、塗り付け物質として利用される昆虫の少なくとも一部は、働き蜂によって生きた状態で捕獲され、オオスズメバチからの防衛のために巣箱に塗り付けられていると考えられる。

 著者らが2011年から継続してきた働き蜂の行動面の調査により、植物のみならず、菌類や昆虫類の塗り付け物質としての利用が示された。さらに他にも多様な生物が塗り付け行動に利用されていると考えられた。一方で、これらがどのような生物に由来するのかを調べるために、塗り付け物質のDNA分析を行った研究はこれまでになかった。そこでDNA分析により塗り付け物質を調査するため、2021年秋に周囲の環境の異なる3つの調査地点で飼育している計6群のニホンミツバチから塗り付け物質を採集し、植物類、菌類類、昆虫類、哺乳類、鳥類を対象としたアンプリコンシーケンス解析によって、これらの物質に含まれる生物相の把握を試みた。DNA分析の結果、植物類(陸上植物)は30科39属、昆虫類は25科31属、菌類(ハラタケ網)は28科38属、哺乳類は11科15属、鳥類は11科13属が検出された。また、予備的に実施したDNA分析からも、藻類、蘚苔類、魚類、甲殻類等が検出された。

 本研究では、天敵オオスズメバチの襲撃という緊急時に際して、ニホンミツバチが多様な生物を塗り付け物質として利用していることを、働き蜂の行動面の調査とDNA分析の両面から初めて発見し証明した。生物多様性豊かな里山にある調査地で採取した塗り付け物質からは、環境省により国内希少野生動植物種等に指定されているクマタカNisaetus nipalensisなどの希少種や、里山や森林に生息する野生動物が他の調査地と比較して多く検出された。ニホンミツバチの塗り付け物質の分析は、目視で生息確認が難しい希少種や野生生物の生息の把握にも貢献できる可能性が示された。本研究から、周囲の自然環境や生息する生物相の違いを反映するような、特徴的な生物の利用傾向が確認された。塗り付け物質の分析による多様な生物の利用の把握は、ニホンミツバチと地域の自然や生態系との結びつきを示していくことができる、興味深いものであると考える。

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投稿日時: 2024-03-07 08:41:54 UTC

公開日時: 2024-03-12 01:58:25 UTC — 2024-03-22 11:09:39 UTCに更新

バージョン

改版理由

引用文献の追加、原稿中の誤字脱字の修正、説明が不足している箇所の追記を行いました。
研究分野
生物学・生命科学・基礎医学