天敵オオスズメバチの攻撃に対してのみ行うニホンミツバチの巣の出入口周囲における塗り付け行動:緊急時に塗り付け物質として利用する多様な生物の新発見
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https://doi.org/10.51094/jxiv.630キーワード:
ニホンミツバチ、 オオスズメバチ、 塗り付け物質、 植物、 キノコ、 昆虫、 動物、 防衛行動、 巣の出入口の塗り付け行動抄録
オオスズメバチVespa mandariniaは、秋季にセイヨウミツバチApis melliferaやニホンミツバチApis cerana japonicaの巣を集団で攻撃し、時には全滅させる天敵である。ニホンミツバチは、オオスズメバチの斥候個体に対して蜂球を形成して熱殺し、その後の壊滅的な集団攻撃から巣を防衛しようとすることが知られている。著者らの2011年からの研究により、オオスズメバチの斥候が巣に飛来した直後に、ニホンミツバチの働き蜂が巣の出入口周囲に複数種の植物の葉や芽を塗りつけ、その際に特有の緊急ダンスを踊ることが明らかになった(Fujiwara et al. 2016, 2017, Fujiwara 2020)。また、これらの行動はオオスズメバチに対してのみ行われ、他のスズメバチ種に対しては行われないことが証明された (Fujiwara et al. 2016, 2017)。
本研究では、2011年から2015年にかけて、ビデオカメラで働き蜂の塗り付け行動を記録し検証した。2015年秋季に、顕微鏡を使用して塗り付け物質を観察したところ、複数種の昆虫と、正体不明の生物に由来する物質を多数見つけた。また、2016年秋季には、野外調査と働き蜂個体のマーキングにより、オオスズメバチの模擬襲撃後に働き蜂が巣箱近傍に生育するキノコを齧り、その後巣箱に戻り巣の出入口周囲に塗りつける行動が観察された。
2017年秋季には、働き蜂がガ類の幼虫や双翅目の幼虫や蛹を大顎に咥えて巣箱に持ち帰り、巣の出入口周囲に塗りつける行動が確認された。これらの昆虫個体はいずれも新鮮な状態であり、傷口から体液が出ている個体も見られた。これらの証拠は、昆虫が捕獲される直前まで生きていたことを強く支持していた。ニホンミツバチがオオスズメバチから巣を防衛するために野外で生きた昆虫類を捕獲し、巣箱に持ち帰って巣の出入口周囲に塗り付ける行動は、著者らが知る限り本研究が初の報告となる。
ニホンミツバチが巣の防衛のために利用する生物をより包括的に把握するため、2021年秋季に、周辺環境の異なる3つの調査地点で飼育されている、計6群から塗り付け物質を採取しDNA分析を行った。本研究では巣箱から物質を採取する際、他の生物やその断片の混入リスクを最小限に抑え、DNAの劣化を防ぐために、蓄積された物質ではなく、働き蜂が塗り付けた直後の物質を可能な限り早く採取した。また、帰巣する働き蜂から直接物質を採取した。それらの新鮮なサンプルを用いて、アンプリコンシーケンス解析によるDNA分析を実施した。これらのDNA解析は、株式会社生物技研に委託した。分析の結果、植物類30科39属、昆虫類25科31属、菌類28科38属、哺乳類11科15属、鳥類11科13属が検出された。また本研究に加えて、2015年以降に別途実施した物質のDNA分析からも、藻類、苔類、魚類、甲殻類等を含む多様な生物が検出された。
本研究では、天敵オオスズメバチの襲撃という緊急時に際して、ニホンミツバチが多様な生物を塗り付け物質として利用していることを、働き蜂の行動調査、塗り付け物質の観察、DNA分析等の複数の手法を用いて初めて明らかにした。また、DNA分析のみからでは把握することができない、生物がどのような状態で採集され、どのような過程を経て巣箱に塗り付けられたのかを把握することができた。
3つの異なる地域で採取された物質の比較により、各地域の自然環境や生息生物相の違いを反映する特徴的な生物の利用傾向がみられた。また、国内希少野生動植物種として指定されているクマタカNisaetus nipalensisなどの希少な生物も検出された。これらの成果は、塗り付け物質のDNA分析により、目視では確認の難しい希少種や野生生物を把握できる可能性を示すとともに、地域の生物相や自然生態系とニホンミツバチとの繋がりを理解するための新たな手段として利用できると考えられる。
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投稿日時: 2024-03-07 08:41:54 UTC
公開日時: 2024-03-12 01:58:25 UTC — 2024-05-10 06:15:09 UTCに更新
バージョン
- 2024-05-10 06:15:09 UTC(3)
- 2024-03-22 11:09:39 UTC(2)
- 2024-03-12 01:58:25 UTC(1)
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