プレプリント / バージョン1

吉原史資料を事例とした歴史資料へのアクセス阻害要因をめぐる諸問題

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DOI:

https://doi.org/10.51094/jxiv.661

キーワード:

吉原遊廓、 吉原細見、 アーカイブ、 記録管理

抄録

 本稿の目的は、筆者が吉原の歴史に関連する史資料の探索において直面した当該史資料へのアクセスの障壁を分析・考察し、アクセス阻害要因を明らかにすることにある。

 吉原史資料研究は、細見が注目され始めた1970年代以降現在まで、その史資料の形式や外型の変遷を中心とした書誌学的分析に研究がとどまっている。こういった研究は無論必要である。しかし、同じ事件についての史資料を読み比べや、細見と評判記の差を示すことも必要である。そういった研究への前進のため様々な吉原の史資料の入手を試みた。その入手に至る一連のなかで、いくつかの障害があった。そのため本稿は、吉原の歴史資料へのアクセス阻害の実例とその阻害要因を複数の事例を挙げつつ、それへの分析・整理をなしたものである。

 第2章では、これまで報告された吉原研究および吉原史資料研究の成果を紹介するとともに、史資料の消失などに関わる事件などを示す。第3 章では、筆者の史資料探索における台東区役所、東北大学附属図書館狩野文庫、近世風俗研究会、岩瀬文庫、東京都公文書館の事例を取り上げ、続く第4 章では、当該史資料へのアクセス阻害要因を整理・考察した。その結果、大学図書館や役所といった公の施設でさえ、史資料の滅失があったことが判明した。また、国立国会図書館のように史資料は存在するが、掲載情報の不備によるアクセス阻害もあった。その他には、東京都公文書館や岩瀬文庫のように交通アクセスによる阻害もあったことが判明した。

利益相反に関する開示

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。

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投稿日時: 2024-04-03 06:12:49 UTC

公開日時: 2024-04-09 10:29:32 UTC
研究分野
人類学・史学・地理学