均衡概念の再考

現代経済における建設的な経済学の再構築へ向けて

抄録

本稿は、昨今のマクロ経済学上の課題、例えばグローバルインバランスや長期デフレ均衡、所得や資産の格差固定化・拡大などといった現象について、市場の失敗や不完全性としてではなく、その構造的な帰結として理解する動的均衡の枠組みを提案する。名目変数による調整に依存する標準モデルとは異なり、資産経済側のメカニズムの導入と横断性条件（TVC）の再考を通じて以下が導出される：R_t-ρ=n+D_a-U_(θa)θ/U_c：このバランス式は、資産収益率(R_t)と時間選好率(ρ)との乖離が、資本の拡散の程度(D_a)や人口増減(n)、あるいは資産選好(U_(θa)θ/U_c)とのバランスで維持され得ることを意味する。その結果、均衡は、価格による清算メカニズムを超えた構造的・制度的相互作用によってもたらされる。同時に、TVCをこの枠組みに起因する資産評価に係る構造的条件として再定義することで、資産水準や対外収支に関する恒常的な差異を伴う定常状態が併存し得ることを説明する。このように、不均衡を内生的な最適化の結果として再定義することで現実経済に即した経済理解を可能とするとともに、実践的な政策、例えば定常状態の構造的選択、資本移動の政策的制御、資産動学を基礎とした政策再検討などをデザインするための道具立てを提供する。このことを通じ、経済学は経済社会の現実を反映し、構造的課題に向き合うことが可能になる。