産学の「境界」をめぐる考察

スタートアップ・エコシステムにおける起業支援人材の役割定義に向けた概念整理

抄録

本研究は、日本のスタートアップ・エコシステムにおける主要な担い手である「起業支援人材」の役割を、産学間の「境界」に焦点を当てて定義することを目的とする。既存文献のナラティブレビューを通じて、産学連携、特に大学の研究の事業化における課題を探求する。分析の結果、アカデミアと産業界の異なる動機が産学の境界を生み出しているという構図が示された。大学は研究を優先する一方、産業界は経済的利益に焦点を当てる。これらの相違は、知識に内在する「粘着性 (stickiness)」や「翻訳可能性 (translatability)」と相まって、効果的な連携を阻害している。これらのギャップを埋めるために、「バウンダリー・スパナー (boundary spanner)」の概念が導入される。本研究は、起業支援人材がバウンダリー・スパナーとして機能し、境界の定義、情報の翻訳、連携枠組みの構築、知識流通の促進といった役割を果たすことを示す。起業支援人材は、産学という異なる組織のアイデンティティと目標から生じる対立を緩和する上で、極めて重要な役割を担っている 。本研究は、提案した枠組みを検証し、産学連携におけるバウンダリー・スパニングの実践的意義を探求するための実証研究の必要性を指摘する。