図書館によるデジタル貸出に関するVOB事件CJEU判決の概要
DOI:
https://doi.org/10.51094/jxiv.415キーワード:
著作権、 EU、 図書館、 貸出権、 デジタル貸出抄録
本稿は、書籍のデジタルコピーを「1部1ユーザ」に図書館が貸し出すというデジタル貸出モデルが、EUの貸与権指令における「貸出」に該当するのかが争われたVOB事件についての欧州司法裁判所(CJEU)による判決の概要を紹介するものである。CJEUのSzpunar法務官は、科学と文化へのアクセスという公共利益となるだけでなく、デジタル貸出が公貸権の対象となることで著作者の利益にもなることなどを述べ、貸与権指令における貸出には、デジタル貸出が含まれると解釈されるべきであるとの法務官意見を判決前に示した。そして、CJEUは、条約における概念との比較検討や立法経緯の検討から、印刷物の貸出と本質的に同様の性質を有する場合には、貸与権指令における「貸出」となり得るとして、貸出期限後に利用できず、かつ、コピーができないような技術的保護手段を施した「1部1ユーザ」のデジタル貸出は、貸与権指令における「貸出」に含まれる旨判示した。VOB事件CJEU判決は、公貸権制度が導入されていない日本法にそのまま当てはめることはできないが、今後日本でもデジタル貸出の具体的な制度を検討するうえで、重要な示唆を与えるものになると考えられる。
利益相反に関する開示
開示すべき利益相反はないダウンロード *前日までの集計結果を表示します
引用文献
榧野睦子「外国著作権法令集(58)-EU指令編-:貸与権指令」著作権情報センター(2021年)
鈴木康平「アウト・オブ・コマース著作物の制度と理論:図書館資料のデジタル化とオンラインアクセス」博士学位論文(筑波大学)(2023年)
ベンジャミン・ホワイト(井上靖代訳)「欧州の図書館と電子書籍:従来の公共図書館よ、安らかに眠れ?」カレントアウェアネス344号21頁以下(2020年)
作花文雄『詳解 著作権法(第6版)』(ぎょうせい、2022年)
稲垣行子『公立図書館の無料原則と公貸権制度』(日本評論社、2016年)
庄司克宏『はじめてのEU法』(有斐閣、2015年)
上野達弘「国際社会における日本の著作権法:クリエイタ指向アプローチの可能性」コピライト52巻613号2頁以下(2012年)
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公開済
投稿日時: 2023-06-12 09:54:48 UTC
公開日時: 2023-06-14 06:18:04 UTC
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鈴木, 康平
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