第1次世界大戦後ドイツのハイパー・インフレーション(2)
インフレーションがもたらした経済的・社会的な作用と結果の検証
DOI:
https://doi.org/10.51094/jxiv.494キーワード:
ドイツのハイパー・インフレーション、 強制在庫、 収奪貯蓄、 収奪輸出、 インフレ・バブル経済、 不当な富の再分配、 労働者階級の貧困化、 中産階級の貧困化と没落、 産業資本家の利益、 金融資本家の没落、 投機資本家の横行、 生産組織の集積と集中、 政府の巨額の債務者利益、 ワイマール共和国の崩壊抄録
本論文は、第1次世界大戦後ドイツのハイパー・インフレーションが、ドイツの経済と社会生活および政治におよぼした作用と結果について、実証解明したものである。C.B.チュローニ氏、圓地與四松氏、J.W.アンジェル氏という、先人の勝れた研究成果を整理して引用紹介した。
第1章では、インフレーションがドイツ経済に、強制在庫、収奪貯蓄そして収奪輸出を引き起こし、一過性のインフレ・バブルを発生させただけのものだったことを、解明した。第2章では、インフレーションが不当な富の再分配を生み出したことと、その六つの特質を解明し、それが労働者階級、中産階級にひどい貧困化をもたらしたことと、この貧困化の諸事例を示した。第3章では、インフレーションが産業資本家を大儲けさせ、金融資本家の犠牲のうえに投機資本家を横行させ、生産組織の集積・集中が大きく進んだこと、そして公債所有者を大収奪し、ワイマール共和国の崩壊に至らしめたことを、解明した。付録資料として、超物価高によるドイツ国民の貧苦とインフレ成金の享楽などの実写画像を多数添付した。
本論文が到達した結論は、リフレ論(異次元金融緩和論・アベノミクス)が主張するところの、「インフレーションは景気を浮揚し、国民生活を豊かにする」という命題は、実証的にそして理論的にも、あり得ない空論である、ということである。
利益相反に関する開示
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投稿日時: 2023-08-26 05:44:16 UTC
公開日時: 2023-08-31 01:23:52 UTC
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