プレプリント / バージョン2

開放経済における資産動学と散逸構造

均衡という「熱的死」への処方箋としての経済学

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DOI:

https://doi.org/10.51094/jxiv.2886

キーワード:

資産動学、 経済学的エントロピー、 実効資産ポテンシャル、 資本飽和係数、 散逸構造

抄録

 本稿は、前稿(北村, 2025)で提示した資産動学に基づく「不均衡を内包する均衡理論」を、熱力学及び統計力学の概念を導入することで深化させ、経済成長の持続可能性やイノベーションの創出といった質的発展論への橋渡しを目指したものである。前稿では、資産選好と資本の拡散により不均衡が常態化するモデルを提示したが、本稿では、これを資産水準を資産収益率で除した「実効資産ポテンシャル」が資金移動の駆動源となるモデルへと拡張した。これにより、各国の資本効率がその軌道を規定するメカニズムを明らかにする。
 このモデルでは、各経済は、効用最大化を旨とする主体的均衡と、資産動学に基づくエントロピー増大への圧力との緊張関係の下にある。そのうえで、多国間データを用いた考察を通じて、世界経済全体が「資金を集めて自己組織化する経済」と「資金を拡散・散逸させる経済」へと分化している実態を示す。本稿は、世界経済をこれら異なる相にある経済が織りなす「散逸構造」として捉える新たな視座を提示する。
 以上の分析に基づけば、経済システムを持続可能なものとするためには、イノベーションの促進や再分配による「澱み」の払拭を通じて、系内部の資産ポテンシャルの勾配を適切に保つ必要がある。経済学で言う均衡は、物理学で言えば「熱的死」であって、経済学が目指すべきはその実現ではなく回避であり、その際、不可欠なのが、システムの「エントロピー管理」の視点であると提唱する。

利益相反に関する開示

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引用文献

北村和人 (2025). 「開放経済における持続的不均衡について—資産経済のメカニズムを通じた均衡概念の再考—」. Jxivプレプリント

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公開済


投稿日時: 2026-01-30 13:41:42 UTC

公開日時: 2026-03-24 01:29:14 UTC — 2026-04-02 12:15:17 UTCに更新

バージョン

改版理由

各国・地域の制度部門別貯蓄投資バランスに言及している17~18ページに、これらと関連する論点として、最近、邦訳版が刊行されたR.VagueのParadox of Debt(邦訳タイトル「世界は負債で回っている」)への引用と考察、さらに巻末に追加のデータ/図表を加え、本稿で提示するモデルがヴェイグの議論のさらに先にあることを示しました。 また、原稿全体にページ番号を追加しました。
研究分野
経済学・経営学