中古日本語の動詞形態論
動詞の語幹と接辞の分類と諸形式の形成の機序
DOI:
https://doi.org/10.51094/jxiv.245キーワード:
中古日本語、 形態論、 語幹、 形態音韻論、 生成音韻論抄録
学校文法や各種分析に残されてきた中古日本語における動詞の語幹と接辞の分析に係る諸問題の解決を図った。命令形,終止形,否定形,使役形,受動形,連体形,已然形について,その動詞と接辞の連なり方を分析した。生成音韻論的分析手法を用いて,接辞に連なる形式を含む動詞の語幹について,それぞれの表層形と基底形,それらが連なる際の音韻規則を想定した。中古日本語の動詞の語幹と接辞の基底形は,その末尾の音素により5種類に,動詞の接辞や動詞の接辞に連なる接辞の基底形は,その先頭の音素により7種類に分類できた。動詞の語幹や接辞が基底形で連なるときに正しく表層形を生成するための音韻規則が明らかになった。その音韻規則には動詞の語幹や接辞の基底形における組合せに対して相補分布的に単純な削除規則を設定しさえすればよい。本稿の手続きを踏まえると,動詞の語幹と接辞の境界を厳密に規定できると明らかになった。
利益相反に関する開示
本稿は著者が所属機関とは無関係に私的に作成したものである。その他,本稿に関して開示すべき利益相反関連事項はない。ダウンロード *前日までの集計結果を表示します
引用文献
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公開済
投稿日時: 2023-01-15 09:43:17 UTC
公開日時: 2023-01-18 00:48:19 UTC — 2024-09-24 04:00:25 UTCに更新
バージョン
- 2024-09-24 04:00:25 UTC(3)
- 2023-01-24 00:46:35 UTC(2)
- 2023-01-18 00:48:19 UTC(1)
改版理由
・「3.1.2 終止形」の項において,命令形の分析で得た語幹基を基に他の形式を分析することの妥当性について追記した。 ・「3.1.2 終止形」の項において,想定する音韻操作を子音連続や母音連続を避けるためのものであると明記した。 ・「3.1.2 終止形」の項において,母音と子音を共に脱落させる音韻操作の妥当性について追記した。 ・「3.2.1 否定の接辞」の項において,「a系接辞基」の中にいわゆる「未然形接続」の助詞を組み入れた。 ・「3.2.4 回想の接辞」の項において,「ⅰ系接辞基」の中にいわゆる「連用形接続」の助詞を組み入れた。 ・「3.3.1 連体形」の項において,動詞語幹の分類ごとの語数の割合に言及する論考を引用し,本稿で論じた音韻操作が語の弁別性にもたらす経済性は中古日本語の体系において重大であることを追記した。 ・「3.4.1 いわゆる「已然形」」の項において,「こそ」の結びとなる「已然形」については「連体形」に「詠嘆の接辞」が後接したものと捉え直すことができることを追記した。また,「已然形接続」の助詞についても,「連体形」に各接辞が後接したと考えられることを追記した。 ・「3.4.1 いわゆる「已然形」」の項において,「連体形系接辞基」と「e系接辞基」を定義した。 ・「3.5 私見のまとめ」の項において,表35を改訂した。 ・参照文献を追記した。ライセンス
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土井, 康司
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