プレプリント / バージョン1

「苦しい、休ませて」は誰の声か

六条御息所の生霊・死霊と、光源氏の三人の妻に分散配置された「家中の悲哀」

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  • 間嶋, 太一 個人研究

DOI:

https://doi.org/10.51094/jxiv.6185

キーワード:

源氏物語、 六条御息所、 葵上、 女三宮、 物の怪、 紫上、 生霊、 死霊、 平安文学、 家中負担、 共同発声

抄録

本稿は、『源氏物語』における六条御息所の生霊・死霊を、嫉妬による一方向的な加害者としてではなく、光源氏との婚姻・擬似婚姻関係に置かれた女性たちの苦痛を接続する構造的なハブとして読み直す試論である。特に「葵」巻の憑依発話「身の上のいと苦しきを、しばし休めたまへ」に注目し、その声を六条御息所のみの告白と限定せず、御息所と葵上の苦痛が葵上の身体を介して同期した「共同発声」として読む可能性を提示する。さらに、紫上と女三宮を含む三人の妻が、それぞれ光源氏の家政・対外関係・感情処理による負担を引き受けていること、六条御息所の死霊が彼女たちの危機に反復して現れること、女三宮の出家後にその顕現が事実上終止することを検討する。以上から、物の怪の反復を単純な嫉妬の持続ではなく、女性が関係から退出できず、苦痛を適切に受け取られない構造への警告として捉える。本稿は従来の物の怪・嫉妬・憑依研究を否定するものではなく、初期読者である女房層に共有されていた可能性のある「家中を誰が支え、その負担を誰が引き受けたのか」という視点を補助線として加えるものである。

利益相反に関する開示

本稿は公刊された文学作品本文および先行研究に基づく解釈的研究であり、独自に収集・生成した研究データセットは使用していない。

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引用文献

紫式部『源氏物語』。本文引用は、大島本系本文を掲げる渋谷栄一「源氏物語の世界」により、朗読源氏物語の原文表示および『新編日本古典文学全集 源氏物語』と照合した。

阿部秋生・秋山虔・今井源衛校注・訳『新編日本古典文学全集 源氏物語』全6巻、小学館、1994–1998年。

紫式部『紫式部日記 紫式部集』新潮日本古典集成、新潮社、1980年。

奥出文子(1976)「六条御息所の死霊をめぐる再検討――第二部における紫上と関連して」『中古文学』18、48–56頁。https://doi.org/10.32152/chukobungaku.18.0_48

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木村佳織(1993)「紫上の妻としての地位――呼称と寝殿居住の問題をめぐって」『中古文学』52、39–48頁。https://doi.org/10.32152/chukobungaku.52.0_39

武原弘(1989)「六条御息所再論――死霊事件を中心に」『日本文学研究』25、45–54頁。

小嶋菜温子(1993)「女三宮・柏木から六条御息所へ――神の罪そして異化の言説」『日本文学』42(5)、22–30頁。https://doi.org/10.20620/nihonbungaku.42.5_22

園明美(1998)「紫上の位置付けに関する一試論――『大臣嫡妻』から『准後宮』へ」『中古文学』61、1–9頁。https://doi.org/10.32152/chukobungaku.61.0_1

堀江マサ子(2014)「『源氏物語』「中の戸開けて」対面する紫の上――六条院の秩序との関わりにおいて」『日本文学』63(12)、1–9頁。https://doi.org/10.20620/nihonbungaku.63.12_1

渋谷栄一「源氏物語の世界 大島本『葵』」https://genji-monogatari.net/html-old/Genji/combined09.2.html(2026年8月23日閲覧)。

朗読源氏物語「若菜下 28 紫の上危篤 六条御息所の死霊あらわる」https://roudokus.com/Genji/35-28.html(2026年8月23日閲覧)。

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公開済


投稿日時: 2026-08-23 02:53:40 UTC

公開日時: 2026-09-07 06:08:23 UTC
研究分野
文学・言語学・芸術学