組織アイデンティティの形成・変化への物質的作用

株式会社太陽の事例研究

抄録

本論文では、ものづくり企業の組織としての自己認識であるアイデンティティが、物質としての製品に媒介された社会や市場（自然や人工物を含む）との相互作用を通じて、物質的影響を受けつつ形成・変化するプロセスとメカニズムについて詳細に検討した。そのために、株式会社太陽の耕耘爪製品事業のインド市場への進出の単独事例を選択し、組織的自我論(organizational self theory)に基づいて、物質的作用に対する行為者としての組織の意味解釈と応答について分析した。その際に、組織としての自己を「組織アイデンティティと組織学習の相互作用」として表現し、社会的相互作用を媒介する有意味シンボル(significant symbol)として製品を位置づけ、市場や社会として自然や人工物などの物質も考慮した。その結果、人工物としての製品を組織と環境のインターフェースとみなしつつ、社会や市場からの物質的影響に対する組織の意味解釈と応答について分析することが可能となった。それで、組織が対象化された自己としてのアイデンティティを変化させ、自分自身のみならず市場や社会も変革するプロセスとメカニズムを具体的に示すことができた。