絵画作品の量的分析の試み：ゴッホにおける感情と色彩

抄録

色と感情の関係は、心理学および認知科学の分野で広く研究されてきた。これまでの研究の多くは、色相・彩度・明度といった色の属性が、知覚者の情動状態にどのような影響を及ぼすかに焦点を当ててきた。しかし、感情が色の使用にどのように影響するかについては、定量的な研究がほとんど行われていない。
本研究では、フィンセント・ファン・ゴッホによって書かれた書簡および制作された絵画の情報を用い、歴史的データを活用した定量的研究が可能であることを示した。書簡と絵画から得られた時系列データに対して状態空間モデルを実施し、ポジティブ／ネガティブな感情がゴッホの絵画における彩度および明度の使用にどのような影響を与えるかを検討した。その結果、ポジティブな感情は彩度と明度の双方を高める一方、ネガティブな感情は明度のみを低下させることが示唆された。この結果は、彩度と明度が感情に及ぼす影響を示した先行研究の知見とおおむね一致している。最後に、このような歴史的データを用いる研究手法の利点についても議論した。