第三波民主主義諸国における文民統制の動態と民主主義の後退

ブラジルにおける軍事化の多次元的構造とその解明

抄録

本研究は、第三の波に属する民主主義諸国において、政軍関係が民主主義の後退にいかなる影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的とする。先行研究では、いくつかの課題が指摘されてきた。第一に、民主主義の後退、崩壊、そして軍事化の過程における軍の役割が十分に分類されていない点がある。第二に、民主主義の後退期における文民統制の潜在的な弱体化について、十分な検討がなされてこなかった。第三に、軍事化の分析対象は主として政治的側面に偏重しており、他の次元が軽視されてきた。

本稿では、特にブラジルを中心に考察を行う。ブラジルは、かつて軍事政権を経験した19カ国の一つであり、軍が政治権力を公然と掌握しているわけではないが、民主主義が形骸化しつつある兆候が認められる。本研究は、文民と軍の関係の変化に着目し、民主主義の後退が進行した時期に軍事化が加速したかどうかを検証する。

本分析から導かれる含意は、「ブラジルでは民主主義が後退しても文民統制は維持された」とする単純な見解とは異なる。第一に、第三の波の民主主義国における文民統制の不完全性を説明するには、社会的・政治的文脈および文民側の能動的な行為主体性を考慮する必要がある。第二に、軍事的背景を有する大統領の登場により、民主主義が弱体化する過程で軍の影響力が強まる可能性がある。第三に、軍事化とは、軍の役割が物質的、政治的、社会的な複数の次元において相互に関連づけられながら拡大していく過程であると捉えるべきである。