必須アミノ酸の起源 細胞外マトリックス仮説
DOI:
https://doi.org/10.51094/jxiv.121キーワード:
必須アミノ酸、 起源、 細胞外マトリックス、 合成コスト、 細胞質抄録
必須アミノ酸は人体において合成できないアミノ酸であるとされ、その成立起源はヒトが食事によってそれらのアミノ酸を十分に摂取できたからであると説明されてきた。しかし、様々な生物のゲノム解析がすすむにつれ、食べる能力のある真核細胞生物は一様にほぼ共通のアミノ酸の合成能力を失っていることが明らかとなり、ヒトの食事内容がその起源であるとする説には限界が見えてきた。これを打破する説明として、各アミノ酸の合成に必要なエネルギー、それぞれの合成経路のステップ数などの関連が推測・検討されいるが、現時点まで必須アミノ酸の起源を直接説明する仮説は提示されていない。
先の論文で、文部科学省が公開している食品成分表のアミノ酸組成の主成分分析においてその第一主成分が必須と非必須のアミノ酸を二分することを報告した。この背景として、すべての食品は真核細胞生物のボディパーツであることから、真核細胞生物のボディパーツにおいては必須アミノ酸と非必須アミノ酸の使われ方に差があると推測した。
実際にヒトゲノム上のタンパク質をみてみると、膜タンパク質に存在する膜貫通ドメインに合成コストの高い、合成ステップ数の多いアミノ酸が集中しており、また、細胞外マトリックスを形成するタンパク質に、低コスト、合成ステップの少ないアミノ酸が集中していることが明らかとなった。食品成分表の統計解析におけるアミノ酸局在の差は、細胞質と細胞外マトリックスのアミノ酸使用の差が現れた結果であると推測した。
生物におけるタンパク質合成は、その細胞の細胞質で行われる。そしてその合成原料は一部は外部から供給されるが、大半はその細胞自体の細胞質の分解物であり、結果としてアミノ酸資源は細胞内で循環していると推測される。また一方では、細胞は膜貫通ドメインを合成する必要があることから、その細胞質には一定量の高疎水性・高合成コストアミノ酸が必ず存在する必要がある。さらに一方では、生物を維持していくためには多量の分泌物、細胞外構造(マトリックス)を合成していく必要があるが、これらに高合成コストのアミノ酸を使うことは、生物にとって不利となりうる。これらをふまえて細胞におけるアミノ酸の収支を考えると、特に低合成コストなアミノ酸は細胞外に出る量が多くなりその収支において不足する可能性が高いことが推測できた。
進化の過程で食べる能力を獲得した生物は、アミノ酸合成能力を持たなくても生存できる可能性を得た。しかし実際には細胞内に留めて循環させることができる高合成コストなアミノ酸については合成をやめることが出来ても、細胞外での利用が多い低合成コストなアミノ酸については合成をやめることが出来なかったと考えられた。そしてこれが、現在ヒトを始めとする多種の生物が、ほぼ共通する必須アミノ酸の合成能力を失い、ほぼ共通する非必須アミノ酸の合成能力を維持している理由であると推測した。これを細胞外マトリックス仮説として提唱する。
ダウンロード *前日までの集計結果を表示します
引用文献
Gutiérrez-Preciado, A., Romero, H. & Peimbert, M. (2010) An Evolutionary Perspective on Amino Acids. Nature Education 3(9):29. https://www.nature.com/scitable/topicpage/an-evolutionary-perspective-on-amino-acids-14568445/
小田裕昭. (2007). 必須アミノ酸, 非必須アミノ酸 その二つを分けるもの. 日本栄養・食糧学会誌, 60(3), 137–149. https://doi.org/10.4327/jsnfs.60.137
Esumi, G. (2020). Autophagy: Possible origin of essential amino acids. Cambridge Open Engage. https://doi.org/10.33774/coe-2020-lll03 This content is a preprint and has not been peer-reviewed.
J. M. Bergほか, ストライヤー生化学 第6版, 24-1, アミノ酸の生合成, 東京化学同人
UniprotKB, "Proteomes · Homo sapiens (Human)”, https://www.uniprot.org/uniprotkb?query=proteome:UP000005640
Akashi, H., & Gojobori, T. (2002). Metabolic efficiency and amino acid composition in the proteomes of Escherichia coli and Bacillus subtilis. Proceedings of the National Academy of Sciences, 99(6), 3695–3700. https://doi.org/10.1073/pnas.062526999
Esumi, G. (2022). プロテオームタンパク質のアミノ酸組成分布は細胞のアミノ酸組成と相互に制約し狭い範囲に収束している可能性がある. Jxiv, https://doi.org/10.51094/jxiv.95
ダウンロード
公開済
投稿日時: 2022-07-21 08:03:12 UTC
公開日時: 2022-07-25 09:43:33 UTC
ライセンス
Copyright(c)2022
江角, 元史郎
この作品は、Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International Licenseの下でライセンスされています。