ポジティブ感情が職務満足と職務パフォーマンスへ与える影響

サービス就業者の自尊心と主観的ウェルビーイング

抄録

現代の日本のサービス部門に就業する人口は年々増加している。他方で、2023年12月付の総務省統計局労働人口統計室による転職者及び転職希望者の動向によると、就業者のうち転職者は325万人と1年前と比較して12万人増加(6期連続)があり、転職希望者も1035万人と78万人増加(10期連続過去最多)がある。このような労働人口の移動に伴い、就業者の労働環境は変化するため、現代の就業者は PCV を知覚しやすいと考えられる。
本研究は、変化が速く複雑な現代の労働環境で、PCV を知覚する可能性が高い就業者は、職務満足度と職務パフォーマンスの低下傾向を、従業員のポジティブな感情が緩和できるか否かを調査した。本研究の目的は、具体的には、サービス就業者が職場で心理的契約違反（PCV: Psychological Contract Violation）を知覚する状況において、従業員の「自尊心 (self-esteem)」と「主観的幸福感 (subjective wellbeing)」は職務満足度やパフォーマンスの低下を緩和し、時には過剰負荷となるストレスを回避できるか否かを探求することであった。
心理的契約違反 (PCV) は、満たされない期待という感情や仕事への不満によって引き起こされ、組織に悪影響を及ぼす (Turnley & Feldman, 2000)。「満たされていない期待」とは、従業員が組織内で遭遇すると予想されることと、従業員が実際に仕事上で遭遇することの間に矛盾が起きる場合である (Poter & Steers, 1973)。現代の従業員は、たとえ転職に成功したとしても、変化が速く複雑な現代の労働環境で、心理的契約違反は生まれる可能性がある。
本研究の分析結果は、従業員が職場で PCV を知覚している場合でも、高いレベルの「自尊心」と「主観的ウェルビーイング」のようなポジティブ感情を維持することで、職務満足度の低下や職務パフォーマンスの低下を回避できることを示した。さらに対人サービス専門職に特有な燃え尽き症候群に陥る危機も、「自尊心」と「主観的ウェルビーイング」のようなポジティブ感情を維持することで回避できる可能性を示した。結論として、本研究は、自尊心と主観的ウェルビーイングが感情のコントロールに熟練する従業員の成長に寄与し、ストレスの多い現代の労働環境や人間関係に上手く対処し、潜在的な燃え尽き症候群を回避する可能性を示唆した。